私が登った百の名山&低山=東北編=「乳頭温泉から田代岱湿原を往復する」

 田沢湖から乳頭温泉郷へ 盛岡から田沢湖に着くと雨は本降りとなった。雨に煙る夏休み前の湖畔は観光客も少ない。散策や釣りも適わず、レストランで麦酒を戴く。当地産の地麦酒はなかなかのものだ。バスの到着を待って、乳頭温泉郷の一つ黒川温泉を目指す。バスを降りた国民休暇村で昼食を済ませ、我々一行5人は黒川温泉に向けて歩き出した。

 一軒宿黒川温泉 秘湯と呼ばれる温泉は、やはり車で玄関横付けではらしくない。自分の足で辿り着いてこそ山奥の一軒宿の気分が増すというものだろう。タイミング良く雨は上がっている。ブナ林の中の道をゆっくりと歩くと、空吹湿原の入口が見付かったが、雨後の悪路に皆敬遠してしまった。温泉特有の硫黄の匂いがし始め、20分程で谷に下りて黒川温泉に着いた。一人、空吹湿原を歩いた。ブナの密林の一画にある小さな湿原は既に夏であった。

 田代岱湿原を往復する 山峡の谷底に建つ茅葺きの湯宿は、温泉と食事のみが楽しみだ。夕食時に聞いた山帰り客の情報では、田代岱湿原は花盛りという。当温泉がロケ地となった一昔前の女優中野良子のポスターと並んで貼られた湿原一面に咲く高山植物のポスターも、登山意欲をそそる。天気もどうやら雨ではなさそうだ。乳白色の朝湯を楽しんだ後、一行に断り、一人田代岱湿原に登ることにする。おにぎりを特注して、地図や雨具、水と一緒にザックに背負った。
 黒川温泉の下、孫六温泉先に登山口は見付かった。取り付きから急坂である。雨上がりの山道を滑らないようにゆっくりと上る。昨夜はたっぷりと睡眠を取り、休養十分で調子は悪くない。ブナの大木の間を過ぎると直登の道は更に勾配を増す。展望のない林の中のルートは頂上湿原まで、楽しみはないのだろうか。心持ち周囲の木々の背が低くなり、沢のような道になった。もう、高度は1200mを超えている筈だ。ほぼ予定の時間で潅木を抜け出し、湿原に到着。早速日光キスゲが目に飛び込んできた。

 高山植物と出会う 尾根道と交差した地点で、腰を下ろして休憩する。登山口以来人っ子一人にも出会わない。雲が低く風がある山頂の湿原は寂しさが漂い、長居は無用である。湿原に咲く花は昨夜の情報程ではない。それでも湿原の木道を少し徘徊して4種類程(イワブクロ、アカモノ、ヨツバシオガマ等)の高山植物をカメラに収めた。
 初めての山は上りと同じルートを採り、ほぼ変わらない程の時間を要して、孫六温泉に下りた。中年夫婦の入る温泉に浸かり、汗を流す。黒川温泉とは違い湯は透明であった。本格的な登山は久しぶりどころか、昨年の夏山以来で、風邪気味でもあり、体力的に心配であったが、先ずは順調にこなした。下山後、バス待ち時間に大釜温泉で秋田の地酒「酒王秀よし」を求めた。

 秋田新幹線で帰京 バスで田沢湖駅に出て、秋田新幹線で帰京した。途中、駒ヶ岳の麓を通り、未だ余力が残りバスを降りようか一瞬迷うも、展望のない山は魅力が少なく、次に回すことにした。夕方には自宅に戻り、午前中は陸奥秋田の山頂にいた筈の自分に驚いた。
 今週はK工業会研究会に招かれて、その後の分科会にも参加させて戴き、そのついでに秘湯から山を楽しませて貰った。皆さん大変お世話様でした。ありがとうございました。(2001/7/13,14 11/100)

追記 秋田の山は当山のみで、乳頭山の近くようである。乳頭温泉郷で、黒湯や孫六温泉を楽しんだ。その後、城跡巡りや乗り鉄はでは数回秋田を訪ねたが、鳥海山の鉾立口も車で往復であった。秋田駒ケ岳はチャンスが巡って来なかった。