我が憧れの山、御所山 御所山は山形、宮城県境にまたがる標高1,500mの山で、全国的には船形山として知られ、現在では日本200名山や300名山に選ばれ、深田百名山の候補でもあった名峰である。私にとっては、我が故郷東根の最高峰でもあったことから、子供の頃から親しんだ憧れの山であった。亡き祖父(1883年生)が青年の頃に登った自慢話を良く聞いたし、また佐渡に流された天皇が脱出し最上川を遡上して御所山に隠れた伝説や粟畑の仙人の話などに纏わる神秘的な山でもあった。
今回一緒に登ったS君が高校で山岳部に入り御所山に登ったと聞いた時は、いつかは自分もと思った。
同級生と登る 今回はS君、Y君それにS夫人のKさん。両君は中学の同級生。S君は奥さんと一緒にやっている果樹園経営に忙しく山はご無沙汰のようだが、直前に夫婦で月山に登ったとのこと。今回は彼の経験が頼りで、リーダーをお願いした。Kさんは、中学時代とS君と結婚当初に登り3回目と聞き、驚くとともに頼もしく思う。Y君は小学校時からの同級生で、現在はサラリーマン。ゴルフはやっているが山は数年前に葉山(1,462m)に登ったことがあるだけとのこと。私に誘われて付き合い登山。
ブナの原生林に出会う 車で柳沢小屋を経て林道終点まで入る。我々のコースは六つある登山コース中の観音寺コースと呼ばれ、交通が不便なこととアプローチが長いためか、このコースを紹介した資料は少ない。林道が出来るまでは、遥か下、仙台へ通じる関山街道のバス停から歩き始めたという。明治期の祖父は東根から歩き途中の山中で野宿したと聞いたと思う。S夫妻も30年前はテントに泊まったという。深山で登山道は奥へ奥へと続く。
緩やかな上りの山道を進むとブナ林に出会う。その見事さに驚嘆し、感動する。これまで、丹沢や奥多摩でもブナを見たが物の比ではない。大木、古木が林立し下方の沢に向かって一面に続くブナ林を見て、これが原生林というものかと納得する。ブナの原生林は、粟畑付近を除き、山頂下まで続いた。
姿を現した御所山 粟畑で休憩し、仙台カゴ(篭を伏せた形の山の意)下の水場で水を補給する。楠峰手前の林が切れた巻道で、左手奥に雲を抱いた御所山が初めて見えた。山容が船をひっくり返した形に似ていることから船形山とも呼ばれる。山頂は遥か遠く、しかも緩やかではあるが下り始め、懐が深い山を実感する。Kさんが中学の時に五つの山を越えて登る山と教えられたとの話を聞いて、昔、五所山と書いた資料を見たことを思い出す。休憩を取りながら、倒木を跨いでブナ林の中を進む。
急登、直登また急登 仙交小屋跡分岐を過ぎると上りが始まる。急な上に直登で、何故ジグザグに道をつくらなかったと先人を嘆く。Kさん一人すいすいと上る。日頃からの鍛え方の違いと節制の賜と男どもは意見が一致。ようやく上り切り平らな尾根を進むと右手に頂上が見えた。ブナ林を抜け出し、樹木のトンネルのような道からやがて潅木の中のえぐられた道となる。これが急勾配である上に真っ直ぐな溝のため両手を使い這うように上る。下りが苦手な私は帰りを心配する程の急な上りで、地図に“きつい登り”と特注のある地点。15分上っては数分休みを2,3度繰り返すと潅木が背丈より低くなり、頭上に風を感じ、頂上が近いことを知る。
遂に山頂に立つ 11時23分に頂上に到達。上り始めて約3時間。明治期に祖父も立ったかと思うと感無量。頂上一帯はお花畑に囲まれた岩石の広場。すでに10人前後の登山者が昼食を楽しんでいた。我々も仲間に入り弁当を広げる。お花畑で咲き誇る白い花はチングルマと教えて貰う。西北に見える筈の月山、鳥海山などの山々は雲の先。それでも、時々雲が切れて近辺の山々が美しく、黒伏山などを確認する。風が出て温度が下がり始めたので、記念写真を撮り頂上を後にする。
無事下山し皆で喜ぶ 下山は上りと同じ観音寺コース。頂上直下の急勾配の道を、ストックを使い草木に掴まりスピードを殺しながら慎重に下る。こんな急坂を先程は良く上ったと感心しながら、身軽に先頭を下るY君を懸命に追う。山のヴェテランS君も上りには苦労したと告白する。上り時に落としたコップが仙台カゴ下の水場で見付かる。拾った人が置いて呉れたのだろう。粟畑の先で最上カゴを右手に見た後、最後のブナ林をしっかりとカメラに収め林道終点に下山。
Kさん、手を挙げて下山の喜びを表す。彼女も本当は決して楽ではなかったのだろう。私も登頂を果たした満足感と無事下山した安堵感を同時に味わう。帰りに柳沢小屋の水場で汲んだ水は、S君の推薦通りブナ原生林の下から湧いた名水だった。
憧れの御所山に登り、念願を果たすことができた。大袈裟に言えば子供の頃からの夢が叶った。S君御夫妻、Y君のお陰である。一人でもと考えたが、上りだけで3時間も耐えられたかは疑問。長いアプローチ、最後の急登と予想以上の難コースであり、下りの後半は足がバテバテであった。
これで、100回達成と夏休み帰省の良い記念となった。(98/8/22 14/100)
追記 帰郷した時、実家近くから宮城県境奥羽山脈の山々を眺め、最奥に船底形を見付けては御所山を確かめている。ブナの原生林に感動したが、後に白神山地の原生林を見て上には上があった。世界遺産には勝てない。田中陽希さんの300名山トラバースのテレビ放映では、船形山 (御所山)もあり、尾花沢から上り、東根から天童へ下った。下山路も見覚えのある風景に見えた。尾花沢では名産西瓜も映った。1967(昭和42)年の夏休み御所山登山を計画したが、仕事の都合で断念したことを思い出した。