私が登った百の名山&低山=北海道編=「北の最高峰大雪山・旭岳に登る」

 旭岳温泉でバスを降り、岩肌をむき出しにして聳える旭岳の勇姿を正面に見て、少し怖じ気付く。ロープウェイを乗り継いで姿見の駅から登山開始。高山植物は後に回し、お花畑の間の登山道を姿見ノ池に向かう。散策する観光客は多いが登山者は少ない。他のコースで羆(ヒグマ)の足跡発見の掲示をロープウェイの駅で見たが、羆の心配はなさそうだ。実は今回は単独行でもあり、熊避けの鈴も用意した。

 北の最高峰旭岳 姿見ノ池に着き、改めて旭岳を見上げる。コニーデ型の山容の真ん中は未だ蒸気を吹き上げる地獄谷で、その左右に稜線を形成しているが、左は谷に急角度で切れ込んでいるのに対し、右はわずかに緩く、そこに登山道が続いている。池から上は岩石と火山灰の砂礫のみで荒涼とした感じ。見通しが良く山頂に登山者の姿が見られる。
 頂上までは、高低差約600mの上りで、こぶを4,5個越える、と見当を付ける。火山灰の道は滑り易く歩き難い上に、急登が続く。約30分毎に小憩を取り、水を補給しながら、地獄谷を左に見て、直登する道をゆっくりと上る。歩き始めは肌寒い程であったが、その後は風も弱まり、寒さは感じない絶好の日和。谷から吹き出す硫黄が時々匂う。途中、麓に目をやれば、手つかずの原生林が続き、まるで緑の絨毯のようで、疲れを癒してくれる。

 急登から登頂 岩場が多い4つ目のこぶを上がり切り、左に方向を採ると頂上真下に出て、金庫岩となる。四角い岩で、下からも特異な形は確認できた。最後の急登を喘ぎながら上って頂上(2,290.3m)に到達。10数人のグループ等が休んでいた。休憩して展望を楽しむ。天候に恵まれ、回りの大雪山系の山々が一望だ。流石は北海道一の高さの山で、地図を出し北鎮岳、比布岳、当麻岳等を確認する。下方の一筋は間宮岳を経る黒岳への縦走路のようだ。

 ゆっくり下山 天候が急変し霧が出ないとも限らないので、休憩を早めに切り上げ下山開始。ガレ場の下りは一層歩きに難い。滑らないように慎重に、ストックを使って一歩一歩下る。砂でスピードを制動しながら、中年男性達が勢い良く下って行った。上りは前後して登ったご婦人にも抜かれ、すぐ離されてしまう。急ぐ必要もなく、転んで怪我でもしたらと考え、ペースを守って姿見ノ池に下りた。所定のコースタイム1時間の処、5分程オーバー。しかし、上りが2時間の処、2時間20分だったのだから、やはり遅いのだろう。
 姿見ノ池からはお花畑を巡る道を回り、高山植物を楽しむ。時期的に盛りは過ぎたようだが、それでもコガネギク、エゾコザクラ、コケモモなどの花が残り、中でもエゾオヤマリンドウの紫が色鮮やかだ。往きと同様、ロープウェイを利用し、旭岳温泉で汗を流した後、バスで旭川駅に出て、列車で野幌に戻る。いかを料理して待っていた長女と地域限定ビールで無事下山に乾杯。
 今回は、夏休みを利用し、北海道の長女の寄宿先に押し掛け、旭岳登山を試みた。天候、単独行、左膝、羆と不安材料は一杯あったが、登頂を果たし無事下山してホッとした。(97/8/21 1/100)

追記 天候にも恵まれて、登山の経験薄い私でも、無事旭岳登頂を果たし、下山できた。地獄谷や麓に広がる原生林は今でも目に浮かぶ。登山家岩崎元郎さんは、登りやすいやまとして選び、姿見からのコースを推奨している(「ぼくの新百名山」朝日文庫188頁)。私にとっては、約30年も前のことで、長女は北海道で結婚し、孫はもう大学生である。私も後期高齢者である。